ISO を企業経営に活かす

                          Biz.総研(株)
                                  代表取締役 加藤 征彦

 

1.はじめに

 筆者は、現在 ISO9001 品質及び ISO14001 環境の主任審査員として、外部審査を行ないながら、
多くの民間企業、地方自治体、国の研究機関等のコンサルティング活動を通じて、実際に役立つ経営
システムを作るため、 ISO 認証取得の意義」 「企業経営への貢献」 を探求している者である。

今回論文公表の機会を得たので、実体験を踏まえて、常日頃考えるところを述べてみたい。


2. ISO
認証取得について

ISO 国際規格は、従来から良く知られている製品規格( ISO 規格ねじ、写真フイルムの感光度)、
試験方法の規格(材料引張試験、○○試験等)から、マネジメントシステムの規格として品質 ISO9001
及び環境 ISO14001 が出現するようになってきてから、一躍有名になってきた。

 マネジメントシステムは、片仮名のマネジメントの用語とシステムという用語の概念をはっきりと掴まないと、
この国際規格の意図するところの理解が曖昧になる。
都合のよいことには、 ISO9000 という用語の解説規格 があり、用語の定義がなされているので、
幾分かは理解できるようになっている。

その用語の定義によれば、 マネジメントとは、「組織を 指揮 し、 管理 するための 調整 された活動」 であり、
システムとは「相互に関連する又は 相互に作用する要素の集まり 」 と定義されている。

しかし、どうも抽象的な表現であり解りづらい。筆者は、このような解りづらい言葉がでてきた場合には、
その意味するところを考えて、日常使われていて、自分が理解できる易しい言葉に置き換えてみることにしている。
「マネジメントシステム」は、仕事のやり方の仕組みであり、仕事を行う際には、ある目的を成し遂げるために、
集団の人々を束ねて管理し、各人の利害関係を調整することであると解釈している。

ISO を認証取得するためには、まず第1番に、このマネジメントシステムの概念が、 しっかりと経営実務に
根付くことに気付かなければならない。しかし、実際の ISO 審査の現場においては、 この重要性に気付くことなく、
表面的なマネジメントシステムを構築している事例が非常に多く見受けられることは大変残念なことである。

よく ISO の外部審査で見かけるケースは、次の二つのケースである。

(その1) ISO 認証取得を会社の宣伝方法であると経営者が考えているケース。
(その2)自社の業種、規模、構成社員の力量に無関係に借り物の ISO マネジメントシステムを構築し認証取得する
      ケース。
前者のケースの場合、経営者が ISO 認証取得を宣伝広告費用としか考えていないので、認証取得後 数年も経つと
会社の経営実態・内容が取引先や世間一般に分かってしまい、 ISO 認証取得が軽視されてしまい、こんなはずでは
なかったと ISO 認証取得を後悔するケースである。

後者のケースの場合は、自社の経営システムを身の丈以上に背伸びし過ぎて 、 自社経営の運営実態が あまりにも
認証取得したISO マネジメントシステムとかけ離れており、無理があり、やはり借り物では問題があり、無理をしなけれ
ばよかったと後悔するケースである。
 
いずれのケースの場合も、経営に貢献せず ISO マネジメントの成果が現れないが、その理由としては、
 @経営者の ISO に対する誤解、Aシステムを構築する際の間違った指導等が挙げられる。

ISO の規格要求事項を深く突っ込んで丹念に文脈をたどってゆくと、実務経営に有効な部分と、 現実の経営には非常に
重要な点なのにまったく触れられていない事項があるのに気がつく。
とりわけ財務、利益に関連する営業収益とかコストについて、具体的に言及しておらず、効果的とか有効性という言葉で
抽象的な表現になっており、具体的な記述を意識的に避けている感じがあり、その抽象的な部分を自社の業種、規模、
社員の力量にピッタリと適合した方法を選択しないと、使い物にならない ISO マネジメントシステムができあがり、企業
経営に結びつかなくなってしまう。

 筆者は、このようなことが多数の事例で見受けられるのは、多分に ISO システムを構築支援するコンサルタントの力量
が原因であり、その力量の真贋を見抜くことができない経営者にも責任があると思っている。
優れた ISO システムを構築するためには、経営の実務知識・経験があり、かつ、 ISO 審査方式を充分理解できる力量
定評がある人のアドバイス、コンサルティングが必須条件となる。
そのような人が身近に見つけることができない場合には、社内で勉強会を行って手作りのシステムを構築してゆくことが
一番効果が上がり、どうしても分からないところだけを、力量・定評のある人に支援助言してもらうのが、最も経済的な
費用対効果の優れた方法であると確信している。



3.品質 ISO9001
について

 品質 ISO9001 は、序文〜第8章まで規格要求事項の目次が分類されているが、企業経営に結びつけて大きく分けて
分析してみると、経営の基礎となる5個の部分に分類できる。

  @文書化による経営運営のルール化
  A経営者の責任
  Bヒト、モノ、カネとりわけ経営資源としての人材育成
  Cモノ作り、サービス提供における品質
  D上記@〜Cの事項が確実に実施されているかどうかの監視(含む内部監査制度)

 多くの経営者にとっては、この ISO 規格の要求事項は、従来の儲け主義経営方式とは様相が異なって、なじみの薄い
ところがかなりあると思われる。特に日本の場合、契約とか文言により、決め事を取り交わす習慣があまりなかったので、
経営ルールを文書化することに対して苦手な企業が多いと思う。 又、経営責任においても、曖昧なところがあり、昨今の
社会問題として注目されている事例が多々ある。
このように品質 ISO9001 を見てみると、使いようによっては、企業経営に役立つ点もあるように思われる。
筆者の経験でも、社員の責任が明確になり、仕事のミスが少なくなったとの感想が審査の際に経営者の声として聞くこと
も多い。 一方、問題点としては何でも文書化ルールにしてしまい、文書量が溢れすぎてしまい、 ISO 制度が仕事の能率
向上に支障をきたしている事例も見ている。これらの事例の教訓として、 ISO の文書ルールは、最小限として決めたルール
は必ず守り、守らせる企業風土を創っていくことが ISO マネジメント成功のポイントであると言える。

  更に、この品質 ISO の規格には、企業経営において見逃すことのできない「プロセス管理」と「顧客満足」という2ツの
キーワードがでてくる。

「プロセス管理」は、企業経営において、どのような過程を経てモノが作られ、サービスが提供されるか確実さとコストを
両睨みして最適な工程を確立することであると言える。最適な工程を確立するためには、組織と責任・権限をハッキリさせ、
力量のある人材を配置した適材適所の人事を計る必要がある。

「顧客満足」は、顧客がどんな事を望んでいるのかを察知先取りして、モノ作りとサービス提供を行うことであり、営業収益の
増大に結びつく。そのために経営者を始めとして社員は、企業発展のため智恵を出し合い、具体的に実行することが何より
も大切である。

  残念なことには、品質 ISO の規格には、社員の努力に報いる人事・労務制度、従業員満足についての要求事項が欠如
しているので、自社の経営業績を上げるためには、経営者は何らかの適切な制度を取り入れる必要があると考える。
そのためには、付加価値を増大する製品を顧客に提供して、経営上許容される自社の状況に合った適正な労働分配率を
設定することが経営のポイントになる。



4.環境 ISO14001
について

 環境 ISO14001 は、利害関係者の信頼を増し、経営管理の対象を環境としているところが品質 ISO と異なる。
ただし環境 ISO が定義する「環境」の考えは、通常一般の人々が考えている環境=公害のイメージとはかなり違っている。

ISO14001 の「環境」用語の定義は、大気、水質、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む組織の
活動をとりまくもの。  ここでいう”とりまくもの”とは、組織内から地球規模のシステムまでに及ぶ。  とされており、
一読してこれは全地球の環境問題であり、人及びそれらの相互関係という定義を読むと 人間の生活そのものを取り
扱う国際規格である
ことを実感させられる。

  まさに地球全体を考えなければならないグローバルな国際規格であるが、身近な企業経営と結びつけて考えると、
環境に影響を与えている企業活動の環境側面(=環境要素)を取り上げて(良い環境影響を含めて)、その中から特に
重要と思われる著しい環境側面を特定して、更に環境目的・目標を決めて達成度を進捗管理するマネジメントの手法である。

  環境 ISO14001 を環境経営の視点から見てみると、今世紀 環境問題を軽視して企業経営は成り立たず、社会一般から
信頼されて発展を続ける企業として存続するためにも企業の社会的責任を果たすことの重要性に気付く。
しかしながら、企業は利益を上げて社会に貢献するという役割もあるので、「社会的責任を果たすこと」と「企業利益の追求
活動」との 一見相矛盾するような二律背反的な問題について、経営者は深く考える必要がある。

確かに短期の企業利益のみを考えると、コスト増大につながりかねない環境対策は、積極的には経営として取り上げたく
ないと感ずる経営者が多く存在すると思う。しかし、前向きにもっと中期的視点で考えてみると、企業が存在できるのは社会
一般の企業を支持してくれる顧客がモノやサービスを購入してくれるからなのだという 根源的な真理 に気付くはずである。
その事実に気がつけば、環境 ISO に対する見方が変わってきて、経営姿勢として積極的になり、世のため人のために
役立ち一般社会の人々に信頼され、喜ばれる環境経営、環境ビジネスの発想が産まれる。

具体的な環境経営、環境ビジネス項目の織り込みは、 ISO14001 の環境目的・目標を設定する際に織り込めば規格の意図
するところに適合する。(但し、環境側面を抽出する際に企業活動として、その項目を意識して取り上げる事が前提条件となる。)
環境経営の発想で ISO14001 を認証取得すると、企業経営の無駄取りが可能になり、企業利益の向上につながることが
筆者のコンサルティング支援の経験でも多数ある。 
ただし当然の事であるが「費用対効果」の視点は重視しなければならない。

又、新たな環境ビジネスへの参入は、綿密に市場調査、競合分析を充分行わないと失敗するケースが多いので慎重な
取り組みが必要である。

  環境 ISO に取り組む他のメリットとして、環境法令の調査・順守を通じて、法律を守って経営を行うという意識が経営活動
の中に芽生え、今後の社会的要請として、企業コンプライアンスを重視する風潮が社会一般の常識となるので、 中小企業と
いえども法律を適切に守ること が非常に重要になり、受け身の姿勢で法律を守るのではなく、 リスクマネジメントの視点
から自らの企業を積極的、合法的に守る
という強い認識が必要な時代が到来したと考えるべきである。



5.経営業績の向上に結びつけた実施例

ISO 認証取得を短期間の経営業績の向上に結びつけた実施例は、現状では数少ないと思われるが ISO の本質的な
意味を捉えて、経営貢献型の品質目的( ISO9001 の場合)や環境目的・目標( ISO14001 の場合)を設定し、 具体的な
実行工程プログラム
を作成した場合には効果が顕現する。
 
  中堅・中小企業の場合、品質又は環境目的・目標の設定内容ですべてが決まると言っても過言ではなく、自社にとって
少しハードルが高いレベルに経営貢献型の目的・目標を設定することであるが、実際に実行可能でなければ意味をなさない。
筆者が体験した実施事例では社長が ISO の本質をよく捉えて、 中期経営計画の企業収益 他と結びつけた例がある。

  この企業は、リニューアル改修を主たる事業内容としている会社であるが、品質目標として各人の契約目標金額と顧客
満足を与えるための提案を割り付けており、その成果が達成できれば、個人の人事処遇・給与がアップする仕組みを取り
入れているので社員のモラールが高く、インセンティブも非常に大きい。このような施策を ISO マネジメントに取り入れた
結果、営業売上高が前年度比 150%贈 の好成績を達成している。

もちろん必要な教育・訓練は社員に対して、公平に実施しており、成果を上げられるかどうかは、個人のやる気と力量
かかっており、 オープンで、且つ、公正なマネジメントシステム になっている。
従って ISO マネジメントシステムは、かなり 経営者の力量 にも左右される所があり、経営者自らが、お手本になるよう努力
して、社員から支持されないと ISO 認証取得の経営業績に対する効果は、なかなか出てこないとも言える。

 環境 ISO で成功している事例を紹介すると、資源の節約及び産業廃棄物の発生量削減を環境目的・目標とした場合に、
予算−実績管理を、きめ細かく管理して材料の歩留まりを上げてコストダウンに成功した事例がある。 
経営資源の効率的運営を目指し、生産性向上をテーマとする事例もある。
この場合注意しなければならない事は、自社の原価管理レベルが、どの程度であるかをよく調べて、コストダウンを達成する
ためにかかる労力、費用を充分に分析して得られる収益とを比較する「費用対効果」を考慮に入れることである。当然の事
ながら、その作業を行う人たちの力量にも関連してくるので、品質 ISO と同様な問題として各人の教育・訓練をどのように行う
かが重要なテーマになってくる。

中堅・中小企業の場合、自社の人的資源として人材の力量を求める事は、なかなか実際問題として 困難であるので、
段階的に人を育成する方法、又、中小企業の実態をよく知るアドバイザーが必要になると思われる。
いずれにしても、 「身の丈ピッタリな ISO の構築」 が必要で、借り物の ISO では、経営業績向上には結びつかないと
思われる。



6. ISO
認証取得と企業経営

 品質 ISO9001 や環境 ISO14001 を今後認証取得する計画をもっている企業、又、現在の ISO システムは問題がある
ので維持・改善したいと考えている経営者は多数あるのではないかと推察する。
ISO の認証取得には、構築の労力と時間が相当にかかり、外部の支援コンサル等を受ける場合には、外注経費も発生する。

  企業である以上投資効果があがることを充分考えて決断する必要がある。そのためには ISO の規格要求にメリハリを
つけて、自社に一番不足しており今後強化してゆかねばならない点を詳しくルール化し、もう既に完成している部分は、
適切にシステム構築してゆく方法を推奨する。

特に品質 ISO で頻繁にでてくる言葉として、「効果的」とか「有効」という文言がでてくる場合、自社にとって、どのようにすれば
「効果的」「有効」になるのかを深く掘り下げて、自社の身の丈に合った方法を具体的に決めることが重要である。

  最近は、 品質と環境を統合 させたマネジメントシステムも認証取得できるようになってきており、筆者も十数社程審査を
体験しているが、統合化に進んでいるケースが多く、特に 中堅・ 中小企業の場合には財務・営業収益も考慮したシステ
ムを構築する方がメリットも大きく
、外部審査経験とコンサル体験からも推奨できる方式である。

 図−1に品質と環境を統合した業績貢献型システムの概念モデルを示す。


( 2005 年 11 月の依頼論文に加筆)