環境パフォーマンス向上のために
                                Biz.総研(株
                             代表取締役 加藤 征彦
                               

  ISO14001環境マネジメントシステム規格の運用効果を評価する国際規格と
  して、ISO14031環境マネジメント−環境パフォーマンス評価−指針がある。
  よく言われていることであるが、ISO14001は、システム規格であり環境マネ
  ジメントの仕組みを構築するものであり、その環境保全効果即ち環境パフォ
  ーマンスは、システム構築の中味と組織を構成する要員の実践行動に大き
  く依存しておりその有効性にも差異が生じる。

   本稿においては、環境パフォーマンスを向上させるためにどのような要素が
  必要であるかを、筆者の環境ISO審査実務経験と文献等から得た知見を基に
  述べてみたい。
 
1.ISO14001システム構築のポイント

  環境パフォーマンスを向上させて効果的な環境マネジメントシステムを
  構築するため、ISO14001システム構築の要点について日頃考えていることを
  述べる。

  ISO14001の規格要求事項は、どの要求項目も各々重要であるが、環境
  パフォーマンスと密接に関連する要求は、4.3.1環境側面4.3.3目的、目標
  及び実施計画をどのような内容にして構築するかにあると思われる。
  何故ならば、ISO14001の環境の定義は広範であり、組織の活動に関連する
  環境側面を抽出し、体系的に整理することは非常に難しい作業であるためである。
  ISO14031環境パフォーマンス規格の内容を利用すると、この環境側面抽出の作業
  と環境目的,目標の設定が比較的容易に体系的に実施することができることに気付く。
 
  環境パフォーマン評価(Enviromental Performance Evaluation 略称 EPE)は、
  評価の指標として、環境状態の指標(ECI)と環境パフォーマンスの指標(EPI)に区分できる。
  更にEPIは、マネジメントパフォーマンスの指標(MPI)と、操業パフォーマンスの指標(OPI)とに
  分類することができる。
 
  図式すると


 

                  
  この関係は、組織の環境状態を良好な状態に向上させるためには、全般的な環境
  経営の取り組みを強化し、更に具体実務として施設及び操業条件を環境に配慮して
  運用することを意味している。
  従って環境パフォーマンスを向上させるためには、組織の運営に環境経営施策を
  取り入れ、具体的な施設の運転、操業条件に環境配慮事項を選定すれば可能となる。
 
  ISO14031の付属書A(AnnexA)には、環境パフォーマンス評価に関する補足的指針として
  パフォーマンス指標の事例が多数紹介されているので、この事例を参考にして組織の
  実態に適合した環境目的、目標を選定すれば適切なものを絞り込める。
  ISO14001 4.3.3の規格にも記述されている@法的要求事項等 A著しい環境側面 
  B技術上の選択肢 C財務上D運用及び事業上 E利害関係者の見解の配慮事項にも
  適合する。
 
2.環境会計的思考の配慮

  次に環境会計的思考の重要性について論ずる。
  ISO14001の付属書(Annex)A.3.3には、環境目的、目標を設定する際に環境原価会計
  手法の使用を義務付けるものではないと記述されているが、環境会計的思考は組織が
  環境経営施策を取り入れる場合には、現状の経済体制では無視できない事項になる。
 
  環境省の環境会計ガイドライン2002年版にも記述されているが、環境会計の機能は
  以下のように分類できる。


  

 
  筆者の環境ISO審査の体験からも、公共の自治体等では、マクロの視点から環境マネジ
  メントシステムを構築している事例が多いが「費用対効果」の認識が少ない場合を
  見受ける。
  又、民間企業の場合はミクロの視点を重視しているが、外部利害関係者のイメージ、
  外部信用の向上をタテマエとして標榜しているが、実際は環境のためにコストをあまり
  かけたくないというホンネが露見している事例が多いのは残念なことである。
 
  環境会計的な思考の重要性は、環境対策の費用対効果を数字で定量的に分析し、
  効果的な環境経営施策を採用し、環境投資計算ができることにある。
  従って原価計算の基礎、管理会計の差額原価計算の考え方を理解し実務的に応用できなければ、
  環境会計手法は有効に活用できないと推量する。
  残念ながら管理会計の手法は、ある程度の規模の組織体でないと自在に使いこなせない
  手法であり、もっと管理会計的発想で環境経営を行った方がよいのではと思われる組織
  体が多数存在することも事実である。
  最近は先進的企業、地方自治体の一部にも環境会計手法の適用を行っている事例を見受
  けるが、あまり厳密過ぎる理論にこだわり、枝葉末節の議論にならないように、経営者
  の直観と管理会計的手法の組み合わせにより、まずは環境経営をやってみることが肝要
  であると考える。
 
3.経営者の実行責任

  最近社会的な問題として報道されることが、多くなってきているが、組織の経営層の
  実行責任が不充分なため、様々な不祥事が発生している。 
  その原因は、表向きは組織の利益を口実にしているが、実際は個人の保身、体面の維持
  のためであることが多い。
  環境・安全問題は、最もこのような不祥事が発生しやすい分野であり、経営者の資質、
  実行責任が問われるところである。
 
  ISOの規格要求事項も近年この点を重視し、法的要求事項、法規制等の順守を厳密に
  審査する仕組みになっている。
  経営者が環境方針を設定、公表する際に自社の組織規模、環境影響と乖離した方針を
  設定している事例を見受けるが、具体的な環境目的、目標の内容が方針に整合してお
  らずISO14001の認証取得の動機が何であるかを疑問視せざるを得ない場合もある。
 
  又、ISO14001を取得した後の継続的改善をまったく実施していないケースも見受けるが、
  環境マネジメントシステムを形骸化させないで、環境パフォーマンスを向上させるため
  にも実行責任が伴うことを経営者は強く自覚しなければならないと思う。
  そのためにも環境会計的思考を組織のシステム構築に取り入れて、実際に実行できる
  環境目的、目標を設定しなければならない。
 
4.構成要員のインセンティブ

  環境マネジメントの実務を行うのは、一般従業員、臨時社員、外注企業の従業員で
  あることが通常なので、実務者のインセンティブの問題は、環境パフォーマンスを向上
  させるために無視できない重要なポイントとなる。
 
  組織の業績貢献を達成するためにも、構成要員の満足度を上げることは必要なことで
  あり、最近のBSC(バランスト スコア カード)理論でも研究されているので、
  今後このことが当たり前になり組織 の施策として定着することを希望する。
  組織の施策、制度として構成要員のインセンティブを重視する組織体は、まだまだ
  数少ないのが現状である。
  この原因は経営者が表面的には環境問題の重要性を標榜しているが、現実の経営施策
  においては組織の利益確保、体面維持が至上目的となっているため、要員のインセンテ
  ィブ施策が後回しになっているためと思われる。
 
  最近になり、CSR(Cooperate Social Responcibility)も社会の話題となり、先進的な
  企業は取組みを開始しているようであるが、筆者の見解としては、法的強制力(罰則)
  を伴わないルールは実効性に乏しく、その力関係において「資本の論理」に打ち負かされる
  ので、この種の問題を論ずる際には、根源的とも言える基本的な矛盾を法制度的に実務解決
  しておかなければ、不毛の議論になる恐れがあると思う。
  
  環境パフォーマンスを向上させるためには、社会的な制裁を与えて不祥事が激減する
  ような法的仕組みが必要である。
 
5.結言

  環境パフォーマンスを向上させるために必要な要素について、以下の事項をまとめ
  として提言する 。

  @ISO14031環境パフォーマンス規格は、国際規格として、有用な規格であり、
   ISO14001環境マネジメントシステムの効果的運用に寄与する。
  
  A環境会計的な思考を考慮することは、組織の環境目的、目標を設定する際に重要で
   実効性あるテーマを選定できる。
  
  B経営者の実行責任は重要であり、環境施策の選定と実行は 今後社会の眼を意識し
   て着実に行うことが必要である。
  
  C組織の構成要員のインセンティブを向上させるために具体的制度、施策を実施する
   ことは経営者の責任でもあり、今後積極的に実現化することが必要である。
 
 
6.参考文献

  1)ISO 14001:2004  日本規格協会
  2)ISO 14031:1999  日本規格協会
  3)環境会計最前線 (財)省エネルギーセンター  (2003年)
  4)R.S KAPLAN, D.P NORTON 戦略バランスト・スコアカード 東洋経済新報社 (2003年)
   桜井通晴[監訳]